プロの目の付け所

僕の父親に良一(53)という人物がおりまして、新潟県で建具店を営んでいます。
一応説明しておきますと、建具店というのは襖(ふすま)や障子戸を作ったりする仕事で、結構昔ながらの職人だったりします。
そんな彼が、どういうわけか最近になって「文学」と「映画」に興味を持ちだしたらしく、何か自分が感心したり、分からないことがあると、僕に電話をしてくるようになりまして、うざったいことこの上ないです。
今日は黒澤明の「用心棒」を観たらしく、意気揚々と電話をかけてきました。
もともと、良一が映画を観たいというので、黒澤明を僕が薦めておいた経緯があります。
その時に、僕は黒澤監督のこだわりについて力説し、良一もそれなりに感心し、興味を示していたようでした。
良く知られているように、黒澤監督のこだわりはハンパじゃなく、「そこの電柱を斬れ!」とか、海っぽさを出すために「湖に塩を混ぜろ!」とか、「入道雲を出せ!」とかムチャクチャなことを大真面目に言っていたわけです。
実際に「乱」という戦国絵巻では、衣装を全部手縫いでするという、果てしなく無意味なことをやっていたりします。
ところが、良一が得意になって「黒澤のこだわりも大したことはない」っつーので、何事かと思って聞いてみたら、
「あの小屋の柱は、電気カンナの削り口だっ!」
とのたまいました。
良一も一介のプロです。