青酸カリに罪は無い

久しぶりに朝まで飲んだ。朝まで飲んだというか、隣に座った年上の女性にずっと説教をされていた。
曰く「ウマクビ君は夢見がちなんだよ!」「この偽善者!」といった感じである。
この二時間前から続く説教地獄だが、周りの人は誰も止めてくれない。
隣にいるハゲ課長など、絶対この異変に気づいてるはずなのに、「ストロークが・・・」などとゴルフの話で盛り上がっている。自分だけ。
「夢見がち」と「偽善者」。一見脈絡の無い言葉だが、これをつなぐキーワードは「浮気」なのである。
つまるところ、僕がうっかり「好きな人がいたら、浮気なんてしないです」などと、まったくの偽善者発言を繰り出したからだ。言葉選びは本当に重要だ。
「おめーは、ワタシが誘ったらするのか、しねーのか?」
と、極限状況の選択を迫ってくる。僕がムググとか言っていると、
「沈黙が答えだ。それは"する"ってことだろ?」
と、まるで正反対の解釈をするではないか。
さらに、「ここにポッキーがあります。見えるか?」
「ハイ。ポッキーに相違ありません」
「このポッキーをお前に託す。(いきなり耳へのささやき声で)このポッキーをワタシの股間に突き立てて下さい。ひとつよろしく」
笑顔だ。笑ってるよ、この人。渡されたポッキーを見つめて硬直していると、
「(ささやきで)誰も見ていません。リスクヘッジは万全です」
一見論理的なような主張をしてくるが、ずれている。どうずれているかも分からない。
それにしても何だろう、この非日常空間は。
「出来ないのか!ええ?出来ないなら、ギョエエーとお言い!」
「それだけは・・」と一瞬思ったが、ギョエエーと言うなどおやすい御用ではないか。いや、まて、これは罠か。
僕が逡巡していると、「タイムア〜・・・」
「うあー言います!ギョエエー」
「声が小さい!ギョエエーとお言い!」
「ギョエエー!!」
まったく意味不明だ。なんだというんだ、これは。
彼女は僕の持つポッキーを奪い取ると、「アプローチが・・・」と得意げに語るハゲ課長の後ろ髪を引っ張り、ヘッドロックすると、ハゲ頭にポッキーで「ロンドン」と書いた。
いきなり自分の頭頂部をイギリスの首都にされた課長は、虚ろな表情で笑った。