モードとはアヴァンギャルドの事

クールビズも一段落したところで、その楽さになれた社員の間でカジュアル導入の機運が高まっている。
要はスーツを着たくないという話で、僕の部署は技術系でお客の前に出る事も少ない為、それも実現可能だろうと思われた。
しかし、真っ向反対したのが50代のハゲ課長。いわく「カジュアルとラフは違う」とのこと。
ハゲ課長がいうカジュアルとラフの境目、それは「シャツをズボンに入れるか出すか」。シャツを出せば、それすなわちラフ。よって、そんなのは認められないという主張。カジュアルでも、シャツは常にインするのが必須なのである。
当然のように若い世代は反発する。自称「会社のファッションリーダー(原文ママ)」の松山さんは「確かにインするべきシャツもあるけど、出してかっこいいシャツもあるんだから。アタマ古いっすよ」といきなりタメ口で反論し、この会議のエンターテイメント性をアップさせた。
松山さんは同意を求めるように、「シャツ・インなんて、普段あんまりしないっすよね?」と、鈴本さんに振った。
鈴本さんは(何回かこの日記にも出てきてるように)ホームラン級のバカだから「そ、そば、ばっ!」とか謎の擬音を発したあと、「そ、そうですよ、シャツ・アウト!アウトして着ますよ、アウト!」とか、野球の審判のジェスチャーをしつつ、意味は通じるがいまひとつ説得力に欠ける答を返した。
「確かに、お前はアウト」そんな心中に起こるツッコミが、出席者全員に主題とは違う一体感を作り出す。まさにグルーヴ、これこそライブ感。
また鈴本さんには、更になされるべき指摘事項がある。むしろこちらの方がクリティカルだと思う。
鈴本さんは、ワイシャツを下着のパンツにインしているのである。ワイシャツをトランクスにイン。横に座っている今もイン。
インしすぎだ。奥まで行き過ぎ、オーバーラン。パンツにインを想像して欲しい。どうなるかというと、常にベルトの上から腹巻きのようなトランクスが見えている状態になる。
つまりは、鈴本さんはパンツがアウト。別にローライズでも無いのに、パンツアウト。ファッションの裏技か。新たな重ね着か。
会議が終わったあとに「なんでパンツにシャツ入れるんですか?」と、思い切って聞いてみた。
鈴本さんは笑顔で「ああ、それは昔の話、オレがまだパンツにシャツを入れてなかった頃・・・」と遠い目で説明してくれた。
「僕はね、トイレに行くと、ついついズボンのチャックを上げるのを忘れてさ、そうするとチャックからシャツが出てきて。白いのが。見つかると恥ずかしいじゃん」
などと言う。うおー、チャックを開けてシャツをアウトしてたのか、そうきたか。そこから出したか。完全に意表をつかれたアウトだ。
「だからさ、パンツに入れれば、チャックからシャツでないじゃん」
まさに裏技。ここまで自信をもって言われると、うっかり”本末転倒”なんていう言葉を飲み込まざるを得ない。むしろ「目からウロコですね」などと、伊藤家の食卓のような雰囲気になる始末。
ただ、ピンクのパンツはやめた方がいい。シャツが出てるより目立つから。いちいち言わんがな。