ロッキー189

僕はその昔、ロッキーというクソ犬を飼っておりました。
どれほどのクソ犬かって、電柱と僕を間違えて、僕にショウベンをひっかけるくらいのクソ犬なんですが、まあ、そんなロッキーも、僕が大学浪人をしているときに死んでしまいました。

ロッキーは、僕が小学生の時に拾って連れてきたイヌころでして、「飼うな!」と頑強に主張する、祖父ゲンペイ(その3年後に他界)に僕が土下座をして、世話を一手に引き受けるという条件で飼った犬です。
良くある話ですが、ゲンペイが「責任感やらなにやらの教育にもなる」と言っていたというのを、後にリョウイチ(父)から聞いたことがあります。

そのロッキーが死んだのが、ちょうど今頃の時期で、僕は浪人して大学受験を控えている身で「東京の大学に受かったら、ロッキーの世話はどうしよう?」と思いを巡らせていました。
そんなタイミングで、自分の役目は終わったとばかりに、ロッキーは死んだわけです。
新潟では、もう雪が降っていました。

それから5年、うまく志望校に合格し、ほとんど雪のない東京で僕は暮らしているんですが、この時期になるとロッキーを思い出します。
そのせいかどうか分かりませんが、最近、夢にロッキーが出てきます。
夢というのは、ちょうど寝付くタイミングに見るものであるらしく、いつものようにウトウトとしながらユメウツツの狭間に漂っていると、不意にロッキーが走り寄ってきて、「ワンワンワン!」と吠えるわけです。

うるさくて、眠れません。

どうやらクソイヌ・ロッキーは、僕のベッドサイドでグルグルと回りながら「ココ掘れ!ワンワンワン!」と、なんかの真似事をしているようですが、僕が住んでいるのは2階です。
バカは死んでも治りません。

確かに、ロッキーは生前から穴ばかり掘るイヌでした。
繋いである紐がかなり長かったせいか、裏の畑のあらゆるところに穴を掘り、最深の物は、ロッキーそのものがすっぽり収まるくらいです。
といって、当たり前ですが、大判小判がザクザクなんて事は無いわけで、ウチのばあちゃん(存命)の格好のゴミ捨て場になっていたらしく、食い散らかしたらしい貝殻やらなんやらをぶち込まれていました。

「クソッ!寝れん!不眠症だ!」といらついておりますと、またリョウイチ(父)から電話がかかって来まして、ウダウダと話を聞いたわけですが、彼が言うには、ウチの裏に公共事業で川(結構でかい)を作るらしく、その用地に当たった田圃を持っている家には、莫大な金が転がり込んだそうです。
事実、ウチの隣のたろぜんどん(屋号)はその金で温泉旅館のような豪邸を建築しました。

聞けば、ウチはカスリもしなかったらしく、リョウイチは「ガッデム、シット!」と、最近洋画で憶えたいけない言葉を吐いています。

面白いことはあるもので、その川を作る段階で縄文時代の遺跡が見つかったらしく、集落跡と、いくつかの土器やら矢じりやらが見つかって、ちょっとした騒ぎになっているようです。

ウチの裏に縄文の集落が埋もれていようとは思いもしませんでしたが、そう考えてみると、ロッキーの穴にあった貝殻は、ばあちゃんが捨てたんじゃなく、”貝塚”だったのかも知れません。

時空を越えてゴミ山を掘り当てるクソイヌ・ロッキー、彼を信じてフローリングをはがしたら、何が出てくるのでしょうか?