秘密と発見とビデオテープ

このほど新潟の実家を取り壊して、新築することとなった。
もう東京に出てきて8年になるので、僕が実家に残して来たものは全て捨ててもらうことにした。
8年間必要としなかったということは、もう永久に必要とすることは無いとの判断である。
と同時に、残してきた道具の中にエロビデオコレクションが含まれている為、機械的に捨ててもらわねば困るのだ。
親にエロビデオを発見されるというのは、日本国男子共通の悪夢である。
高校時代、エロビデオを借りてきては2台のビデオデッキを使ってダビングしていた僕は、その保存場所に頭を悩ませた。
なにせ相手は親である為、僕の思考回路の大部分を把握している。
なまじベッドの下などに隠した日には、瞬殺で発見される。
そこで考えついたのが、ビデオテープ棚に素知らぬ顔で並べておくという、同じものの集団に紛れ込ませるという案である。
とはいえビデオテープには背表紙がある。
まさか正直にタイトルをいれるわけにはいかないので、カモフラージュの意味を含め、
インディージョーンズ 〜教師と生徒〜”
“007/ロシア人の愛を込めて”
宇宙戦艦ヤマト 〜地球制服編〜”
などと、映画の副題に紛れ込ませたり、
男はつらいよ24 〜ヒロイン 飯島愛
と、女優別に分けたりしていた。
このようにどんな努力をしようとも、観ているところを見つかるというのがもっとも最悪なケースだ。
友人の遠藤君などはヘッドホンをしてエロビデオを鑑賞するという暴挙に出たため、背後にいる妹に全く気づかなかったという身の毛もよだつ経験をしている。
僕も鑑賞中、突然母に扉を開けられた事がある。
そのときはあわてて停止を押したため、映像自体は観られずに済んだのだが、ビデオデッキというのは停止を押してからも“ガチャ、ウィィーン、シュルゥ”などと、けっこう響く音で稼働するのである。
母にしてみれば、自分が扉を開けたら息子がなにやらあわてていて、さらにはビデオがガチャガチャいってたら、そりゃあもう言わずもがなと思うわけだ。子供の成長に感服するかもしれない。
「ご飯よ」と、手短に用件を告げて去った母だが、その心では息子のエロビ鑑賞を確信している。
なんとかせねば、と僕が心を乱していると、また母が近づいてくる気配を感じる。
そこで僕はひらめいたのだが、素早くビデオテープを映画に取り替えて、母が部屋を覗いた時点で再生すれば、「ああ、映画だったのか」と思わせる事が可能なのではなかろうか。
間髪いれずビデオを交換し、母が扉を開けた瞬間に、僕はリモコンの“再生”を押下した。
その瞬間、部屋には“オ〜マイ〜オ〜マイ〜”という外人のあえぎ声と、モザイクいっぱいの画面が映し出された。
入れたビデオは“ファック・トゥ・ザ・ティーチャー”だったのである。