ひとたびは世界にひれ伏す

うおー。
と、柄にもなく叫びで始めてしまったが、湯を張った風呂につかろうとしたら、それが冷水だった。
いくら僕が白痴だといえど、この真冬に水風呂に入ろうというわけもなく、給湯機が壊れていたのである。
やむなくビル管理会社に電話し、メンテナンスの人に来てもらった。
「あー、こりゃ、完全な故障ですねー。メーカーに来てもらわないとねー」
「えー、じゃあ、休み明けまで治らないんですかー」
「そうだねー、いちおう、やってみるけどねー」
と言いつつ、いきなり電気ブレーカーをバツッっと落としたのである。
その瞬間、暗闇に包まれる我が家とともに、音楽をせっせとダウンロードしていたPCはその機能を奪われ、一時停止を解かれるのをいまや遅しと待っていたハードディスクレコーダの息の根は止まり、暖かい風を健気に送り出していたエアコンは”ぽよ〜ん”とかいって力なく送風口を閉じた。
再びブレーカーを入れられた瞬間、PCはガガガガッとか明らかに異常な立ち上がりを見せ、ハードディスクレコーダはその画面上に「不正な電源断のため、記録内容が壊れた可能性があります」などと僕を責め立て、エアコンに至っては「オレっていままで暖房?冷房?どっちしてたんだっけ?」などと、ランプをポカチカさせて記憶喪失に陥っているではないか。
その他電話機は”ピーヨー”とか光り、冷蔵庫は”ブオォーン”とか復活の地鳴りを響かせ、携帯充電器は満タンだったハズなのに再び意気揚々充電を始める始末である。
いやまあ、何を思うって、自分の生活が電気の上に築かれた砂上の楼閣だったって事以上に、なんと僕はいろんなものに”奉仕”されていたことかという事だ。
僕は自他共に認めるほどの謙虚人間だが、ひとたび家に帰れば、なんの感謝もなく冷蔵庫に食物を保守させ、ボタンひとつで暖気を出す事を強要し、時間通りにテレビを録画させ、クリックごときの手間で音楽をダウンロードさせていたわけだ。
お前は王様かと言いたい。言われたい。電化製品に。
で、ひとつひとつに感謝を込めてチェックしていったのだが、一番ダメージが大きかったのがハードディスクレコーダ。
「朝生」の田原総一朗のアップで一時停止していたのがいけなかったのか、かなりの録画映像が消えてしまった。
(3連休2日目の昼下がりに「朝生」を見ているという生活の是非はおいておく。おいとけコノヤロウ)
唯一生き残ったのが昔撮っていた長井秀和で、再生したら「最初のデートで三国志の話はやめろ!」と言っていて、まさにオレだと人生を振り返ってイヤになった。
ハードディスクレコーダのささやかなレジスタンスだと思いたい。