見たいものだけ見えている

昔の話だが、幼児向け番組のポンキッキーズで、「顔に見えるもの」というコーナーがあった。世の中にある「顔に見えるもの」を紹介するという内容で、例えば、車のヘッドライトだったり、マンホールのフタだったり、ネコの背中の模様だったり。
そもそも人間は、三つの点が逆三角形に並んでいれば、それを顔と認識するらしい。こんな感じ。
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人間の脳みそは意味不明な対象物に出会ったとき、そこに意味を持たせて理解するようになっている。いったん意味を持たせれば、その対象物を脳は明確に認識し、車のヘッドライトを顔として見る事が出来る。そのうち、顔にしか見えなくなるほどだ。
このように、脳というのは結構柔軟に出来ていて、適当なものに「これ」と意味をあたえて思いこんで見れば、そう見えてくるものだ。
よく道順などを説明するときに、「この消しゴムをガソリンスタンドとしたらさ」などと、机の上に文房具を並べる事がある。不思議なもので、その瞬間、消しゴムは確かにガソリンスタンドなのだ。ENEOSのロゴすら見える。
僕の隣の清野さんはこういった説明が好きで、今日の昼休みに「竹島問題」で議論したとき、自分の弁当を中国大陸に見立て、そこに醤油差しをくっつけた朝鮮半島、寄り添うようにのびるハシ袋が日本列島。机上の弁当が一気に極東と化した。
清野さんは元海上自衛隊九州男児だけあって、物言いはハッキリ理路整然、猪突猛進な感じで、竹島問題についても「サンフランシスコ講和条約」を持ち出して説明した。
その流れから会話が北朝鮮問題に発展したところで、興味を持ったハゲ部長が会話に加わってきた。(前の日記で書いた、ハゲの頭頂部にポッキーでロンドンと大書された部長)
清野さんは部長の姿を認めると、そのまま続けて「北の核に発射の兆候があれば、アメリカの偵察衛星でキャッチ出来るし、イージスシステムも役だって・・・」と口角泡を飛ばして熱弁をふるった。さらに「偵察衛星はね、成層圏より上の軌道にあって、距離にしてみれば・・・あ、部長、ちょっと三歩下がって下さい」と指示し、部長は疑問の表情を浮かべたまま指示通り三歩さがった。
清野さんはそれぞれの手にコンタクトケースと目薬を持ち、「これがね、地球。こっちが偵察衛星。で・・・・部長が満月」
満月は無いだろう。仮にもハゲに向かって。
そこは通常というか、せめて月と言っておくべきところだ。敢えて、満月。さながら、満月。
部長の頭に、餅つきをするウサギが浮き出てくる。
昼休みの興奮冷めやらぬ午後2時過ぎ、プリンタの前で部長がごそごそしている。どうやら、プリントしたはずのドキュメントが出てこないらしい。
気を利かせた清野さんは、すかさず部長のもとに行き「部長!紙が無いんですよ!カミが!」と、何を今更とオフィスを騒然とさせる指摘。
会話が交錯して音の塊となっているオフィスで、この一言を聞き逃した社員はいなかったらしく、これまた脳が「意味のある会話」を聞き分け、拾った結果であろう。
脳はなかなかに罪な器官である。