陰と陽

宇宙の森羅万象、全て陰と陽にわけられると言うが、僕の仕事で隣に座っている山本さん(40・男)は陰の変わり者である。

今日は、ふいに自殺未遂の経験を告白された。
告白と言っても、2秒前まで「ポルシェの空冷エンジン」について話していたので、けして深刻な告白ではないのだが、なんと言っても自殺未遂である。

山本さんの自殺未遂歴は3回あるそうで、1回目と2回目が手首を切ったそうだ。
見せてもらうと、確かに傷跡が白くハッキリ残っている。
2回とも医者に「手首を切っても死なない、ナタで落とせ」と笑われたそうだ。と、山本さんも笑っていた。
3回目は、ベランダにひもを吊しての首吊り。
その時は、ひもが自分の重みに耐えきれず、庭先に落下した。
音に驚いて飛び出した父親に山本さんは「臼!臼!」と言ったそうである。
「さるかに合戦」の臼役ならば怪しまれまいと思ったと言っているが、そりゃ煙に巻く事には成功するだろう。
自殺するほどの悩みを聞き出す気力も無かったが、山本さんの目下の悩みは、「スナックのママにつぎ込んだ700万が
返って来ないこと」だそうだ。

とても僕一人で受け止めれる話題では無かったので、右隣の西山さんに話を振ったのだが、西山さんも困惑して「あー」と
言うだけである。
さらにこの人は、困惑すると自分の鼻を指で上にあげるという癖がある。要は、自ら豚鼻になるのである。
しかし、面と向かって豚鼻にされるという行動が、人間にどういう感情を巻き起こすかと言えば、これは複雑である。
例えば、両手の親指を鼻のそれぞれの鼻の穴にあてがい、残りの指を「ぴろぴろ〜」とすれば、これは「侮蔑」である。
「アカンべー」も「侮蔑」。
しかし「豚鼻」の発するトホホ感はどうであろう。

西山さんは、陽の変わり者だと言える。