蛇に睨まれたのは誰なのか?

前回に引き続き山本さんの話になって恐縮だが、僕の左隣に座っている山本さんは博識だ。日常会話に形而上を盛り込むくらいに博識である。
だからというか、人の揚げ足を取るのに悦楽を感じるタイプの人間である。
対して、僕の右隣の西山さんは、日本語が怪しい。
自らを豚鼻にしながら、微妙にずれた日本語を駆使して主張を展開するのだ。
今日もある案件についての問題点を話し合っていたのだが、その中で西山さんは
「これじゃあ、蛇に睨まれたネズミだよ!」と憤激した。
微妙に動物が違う。
とはいえ、僕はさほど日本語に厳密性を求めないので、多少用法(や動物)が違っていても、文脈判断で理解できれば、心の中で突っ込むだけで、その場は話を前に進めるようにしている。
そもそも、ひとつの物や状態を表すのに、ひとつの単語をあてがう必要は無いのではなかろうか。
僕の祖母に言わせれば、この世の色は『赤・青・白・黒』しか無い。
「おい、そこの青いの取ってくりゃ!」と言われれば、幼少の僕でも、状況を的確に判断し、『そこの緑のバケツ』を取ったものである。
また、「みかんは赤ければうまい」と言われれば、なるほどうまそうなみかんを思い浮かべる事ができる。
そこには人間の想像力が入り込み、僕なりの赤が僕の中で展開されるわけで、その魅力は『厳密な特定』という伝達の効率をも上回るのではないか、というのが僕のスタンスである。
話がそれたが、そうはさせないのが山本さんだ。
今回のミスについても、オセロの角を全部取ったような得意っぷりで「それはカエルだよ、西山くん!」と勝ち誇った。
西山さんは「分かればいいんです」と力無く反論していたが、それはそれで真理である。
そういう山本さんが間違いをしないかと言えば、そんなわけはなく、むしろ多いと言わざるを得ない。
一週間くらい前だが、お客のメールアドレスを山本さんに口頭で教えてもらう機会があったのだが、ハイフン(−)を、「ハイペン」などと言うのである。
さすがの僕も理解不能だったので、「え?」と聞き返すと、やはり自信が無かったのか、小声で「ホイトン」「ポポン」などと繰り返す暴走っぷりである。「ポポン」は風邪薬だろ。
さらに、アンダーバー( _ )を「アンダーパー」と言い切ったため、冷静に「それはゴルフですね」と指摘せざるを得なかった。
文脈判断と想像力にも限界ってものがある。