矛盾がぶつかる

(7月24日「世界最大のミミズ」からの続き)

「オレが一番怖いのは、女」と、ハードボイルドな会話への割り込み方をした山本さん。
頭に絆創膏を貼り付けて出勤してからというもの(7月17日「山本さんの頭に穴が」参照)、どういう訳か異常にテンションが高い日々が続いている。

得意先に電話をかけ仕事の話もそこそこに”桜田門外の変”について30分以上とうとうと語ったり、昼食にキムチ200gを買ってきたり、ところかまわず放屁をして「屁をひっても独り者」などと感慨にふけったりしているのである。
また、いつにもまして電話をとるのが早い。速い、とした方がいいか。
そのあまりの腕の振りの速さのため、受話器が取った勢いでそのままスポーンと後ろに吹っ飛び、吉田さんの後頭部にメガヒットした。

後頭部といえば山本さんの後頭部に付いていた絆創膏。
「かゆい!かゆい!」と、大騒ぎした山本さんが、我慢できずに絆創膏をはがしたのだが、一緒にはげたかさぶたに毛根ごと髪の毛が付いていたのである。20本ほどの。
それを山本さんが向かいの、いとうせいこうガリガリにしたような竹下さんに見せたら、その場で卒倒。

お詫びにと、嫌がる竹下さんを誘った席では飲み過ぎて、立った瞬間に白目をむき、ノーガードでカツオのタタキに顔をぶち込んだ。
今度は足を引きずって来て、聞くと「電柱と闘った。住所表示が憎かった。電柱ならどこでも良かった」と真顔で答えるのである。

「女は怖い。今付き合ってるヤツとも、もう別れようかと思う」
聞けば、彼女であるところの韓国パブのママが、他の男と歩いているのを見たそうなのだ。
またそれが、地元のヤクザのお偉いさん。
にもかかわらず、今日も「さみしいから、店に来て」とメールが入っている。
「ふたまたなんて・・・」と落ち込む山本さんだが、どう考えても営業メールである感は否めない。
さらに、「店のコを迎えにやるから、一緒に食事でもしてきてよ」とも書いてきたらしい。
ますますもって、同伴込みの営業メールであると言わざるを得ない。

でも、山本さんが言うには、”結婚を前提にしたカノジョ”なのである。
「韓国に行って、指定する娘と結婚して、一緒に入国してきて」と、偽装結婚の片棒を依頼されても、やっぱりカノジョなのである。

そんな彼女に恋いこがれて、憔悴していく山本さん。その反動なのか、最近異常にテンションの高い山本さん。

ある日、僕と竹下さんに「ちょっと、そこで急いで待ってて!」と意味不明な言葉を残して失踪し、帰ってこなくなった。