ダンサー・イン・ザ・ダーク

巷でかなり評判なもんで、『ダンサー・イン・ザ・ダーク』を観に行って来ました。

映画館に着くとすでに予告編の上映が始まっていて、僕は慌てて受付に行ったんですが、「作品名と、券種を言って下さい」なんて言われたもんで、いそいそと学生証を出しまして、「ダンサー・イン・ザ・ダークを、学生で!」のセリフで完璧、と思って列に並んでいました。

と、案内のお兄さんが「ダンサー・イン・ザ・ダークの予告編が、もう少しで終わります。急いで下さ〜い!」なんて言って、僕をせかします。

ちょっと狼狽した僕は、受付に学生証を見せながら、
ダンサー・イン・ザ・ダークを、予告編で!」なんつー訳の分からんことを口走ってしまい、赤っ恥をかきました。
僕の頭は、シェイカーですか。

それはさておき。

この作品は、要するに元シュガーキューブスビョークさんのミュージカル映画です。

僕が高校生の時、ビョークの『デビュー』というアルバムが発売されまして、そのジャケットの写真を見て「何だこの奇跡的に綺麗な人は!」とジャケ買いして、それを見ながら『バイオレントリー・ハッピー』を聴いてムフフと興奮していた事を思い出します。

ちなみに、2代目奇跡的に綺麗な人は、メンズノンノに出てた頃の吉川ひなのです。
それはさておき。

ということで、そんなビョークの追っかけ高校生だった僕は、たまたまテレビのワイドショーで『衝撃映像!』のコーナーをやっていたんで、ボケーっと見ていました。

場面は空港のゲート付近でしょうか、子供連れの女の人が取材陣に囲まれます。

女性リポーターにマイクを向けられたとたん、その人は怒り狂ってリポーターの髪の毛を掴み、振り回し、泣き叫び、慌てたSPに取り押さえられました。

それがビョークだったのです。

また、それと同時期にビョークの記事を読む機会がありまして、そこにはこう書いてありました。
「インタビュアーが気に入らなかったビョーク、ボールペンをバリバリ食べる」

日本ではCoccoがガムテープをムシャムシャ食べるってのがありますが、狂い系の女性アーティストは、文房具が好物のようです。

僕が大学に入ってから、この空港の凶行(バンコク事件というらしい)を書いている記事を見付けることが出来ました。
その記事によると、事件の真相には次のような事情があったようです。

ビョークは、当時8歳になる自分の息子を、マスコミから守ろうとした。
もう、それは本能的、衝動的に。

そういう前提があったためか、映画の中で一心不乱に息子の未来を守ろうとするセルマ(ビョークの役名)に、その狂気じみた行動に、思いっきりビョークを投影してしまいます。

セルマを見守るというより、ビョークを見つめるって感じです。

ここでいう息子の未来とは、視力です。
ビョークとその息子は遺伝性の目の病気を持っていて、それは大人になると失明してしまう、といういささか荒唐無稽な病気です。

しかし、手術をすれば、息子の病気を治すことが出来る。

そのために、全てを犠牲にして手術費用を貯めるビョーク
自分の命であるミュージカル、そして、本当の命までも、ビョークは犠牲にする覚悟があります。

登場人物の一人が、ビョークに語りかけます。
「遺伝するのなら、子供を産まなければよかったのに」

それに対して、ビョークは、
「赤ん坊を、この腕で抱きたかったの」と答えます。

もう、それは女として、まさしく本能的で、衝動的な一言です。

工場の機械の音が作り出すリズム、列車と線路の間に奏でられるリズム、それを音楽にして、軽やかに跳ね回るビョーク
そして、その体から発せられる圧倒的な歌声。

そんな本能的で衝動的なビョークだけで、この映画は充分なのかもしれません。