八月の鯨

やらなければいけない事からの逃避で、大量にあるビデオテープを整理してみました。
「機能美あふれるビデオ棚の実現にむけ、しなやかな県政」などと鼻をフガフガ、手をガチャガチャしていると、大学2年の時に友人と撮った自主制作映画が出てきました。

この作品には主要人物が3人出てきて、そのウチの一人を僕が演じているわけですが、僕の演技はなかなかに評判が良かったです。
というのは当たり前の話で、僕はセリフが「ん?」とか、「あ」しかありません。
演技がうまく見えて当然です。

長いセリフというのはうまい役者しか言えないわけで、下手な役者に言わせると、目が泳いでみたり、表情や発音の強弱に歪さが出てくるものです。
だから、連ドラとかでヘタな役者の演技を誤魔化すために、必要以上長いセリフを言わせないようにしているようです。

また、長ゼリフというのは当然憶えるのが大変で、舞台なら、一回憶えたら公演の期間中に何度も言えるからいいんですが、映像(テレビ、映画)というのはそうはいきません。
どんなに長いセリフを憶えても、一回言ったらそれっきり、忘れなければならないわけです。
忘れるべきものを憶えるってのは、人間的には非常に難しいものなんだそうです。

これが老人になると、もっと大変なことになり、セリフ自体をを憶えられなくなるようです。
確かに、晩年の笠智衆さんなんか、「ウム」しか言わなかったですね。
ご年輩の時代劇俳優で、「セリフを憶えられなくなるのが怖い」という理由で自殺をされた方もいます。

だから、80歳を過ぎたご老人の役者さんが長いセリフをよどみなく言っているところをみると、僕はそれだけで感動してしまいます。

それを考えると、『八月の鯨』(87年・アメリカ)の80歳と90歳の老婆の演技ってのは驚異的ですね。